新設索道レポート|失われたロープウェイ

キロロリゾート コンビ リフト ゲートウェイエクスプレス
 キロロ YU Kiroro コンビリフト  YU Kiroro Gateway Express - Part II コンビリフト 北海道

【北海道 / キロロ ゲートウェイエクスプレス −後編−】

2020/1/21
前編に続き、後編は今シーズン(2019-2020シーズン)オープンした北海道・キロロリゾートのコンビリフト「ゲートウェイエクスプレス」とコンドミニアム「YU Kiroro」の現地レポート。

キロロ ゲートウェイエクスプレス
キロロ・ゲートウェイエクスプレス。後方に見えるのはマウンテンセンターとシェラトン・キロロ(旧・キロロマウンテンホテル)

ゲートウェイエクスプレスはドッペルマイヤー傘下のCWA社の8人乗りMGD(OMEGA IV-8)とクワッドリフトのハイブリッドで、1編成がゴンドラx1・クワッドx2で運行中。

索道の施工は日本ケーブル梶B今回のゲートウェイエクスプレスで現在、国内に3ヶ所あるコンビリフトはすべて同社が手掛けたことになります。

ドッペルマイヤーの国内代理店である同社は来シーズン(2020-21シーズン)に開業予定の野沢温泉スキー場の新ゴンドラ*注1も手掛けており、同スキー場に新設されるリゾートセンターも含めグループ会社を通じて約38億円を投じる*注2など国内の索道会社で今最もホットな存在。

キロロでは全てのクワッドリフトと上部ゲレンデのペアリフトがフード付きですが、最下部に新設されたゲートウェイエクスプレスのクワッドにもフードが付いているのはありがたいです(ハイシーズンのキロロはかなり寒いのでフードの効果は大きい)。

ゴンドラのスキーラックは通常のキャビン側面に設置してあるタイプ。ラックの形状はファットやツインチップの板にも対応。

コンビリフト ゲートウェイエクスプレス
コンビリフトの乗場はクワッド用・ゴンドラ用で左右に分かれている。

ゲートウェイエクスプレスはメイン宿泊エリア(下の図のTエリアとYエリア)とスキー場ベース(Sエリア)を連絡。この区間は従来シャトルバスで連絡していたので、これで宿泊施設からのスキーイン/アウトが実現したことになります。

トップの写真のようにコンビリフトの下には連絡コースが新設されましたが、このコースは圧雪はしてあるものの、緩斜面どころかほとんどフラットなのでスキーでも大半は漕ぐことになり、ボードだとちょっとキツそう。

スキー場・メイン宿泊エリア間の移動は往復ともにゲートウェイエクスプレスを利用するのが正解かも。

YU Kiroro (ユー・キロロ)のコンビリフト ゲートウェイエクスプレス
キロロリゾート2019-20マップより

【Yu Kiroro】

ゲートウェイエクスプレスと同時にオープンした高級コンドミニアム、Yu Kiroro(ユー・キロロ)はチャコールとブリックカラーを基調とした落ち着いた配色。今どきの北米やヨーロッパの高級スキーリゾートでよく見られるシンメトリー構成のシックな建物で、現在ルスツで分譲中のザ・ヴェール・ルスツ(The Vale Rusutsu:東急不動産)も同様のデザイン。

隣に見えるバブル最盛期にヤマハが会員制リゾートホテルとして建設したホテルピアノ(現・トリビュート・ポートフォリオホテル)の威容とは趣の異なる高級感です。

Yu Kiroro
Yu Kiroro後方の広場。右の建物がユー・キロロ、左奥がトリビュート。

Yu Kiroroは後方が広場になっていて、ここからムービングベルトでゲートウェイエクスプレスの停留所へアクセスできます。

この広場では雪遊びを楽しむアジアからのゲストの姿もあり、前述のコンビリフト下の連絡道でも雪上車のミニツアーが行われるなど、スキーやボードにあまり馴染みがないアジアからのゲストも雪を楽しめる工夫がされています。

Yu Kiroro
完成したユー・キロロ。前編と同じチャペルからのアングルで。

1992年のキロロスノーワールドの完成以降、2度の代替わり際にそれぞれ行われたマウンテンセンターと2つのホテルのリニューアル以外は基本的に大きく変わることの無かったキロロの施設群。

今年、28年ぶりにYu Kiroroとゲートウェイエクスプレスという大きな施設が加わったわけですが、実際、この2つの施設が出来ただけで従来の国内スキーリゾートから北米やヨーロッパのスキーリゾートのイメージに一歩近づいた感があります。

今のところ国内のスキーリゾートで海外で最も知られているのはニセコで、海外のスキー場のゴンドラの車中で乗り合わせた外国人スキーヤーたちと言葉を交わす時など「日本から来た。」と言うと「日本か、ニセコは良いよね。」と言われたことが一再ならずありました。

個人的にはニセコより好きなキロロの名を北米やヨーロッパのスキー場で耳にしたことはなく、今はまだビレッジと呼ぶには施設不足ですが、今後10年で1000億円を投じておこなわれるという拡張計画が完遂する頃には、キロロもグローバルなスキーリゾートの仲間入りを果たしていることを期待。

トリビュート・ポートフォリオホテル キロロ
ビレッジの中核となるキロロトリビュート・ポートフォリオホテル。


【相次ぐ国内スキーリゾートの大型投資】

ニセコビレッジエクスプレスの記事にも書いた通り、インバウンドを視野に入れた国内スキーリゾートの拡張は北海道を中心に2015年あたりから顕著になっています。

国内ではニセコに次いで外国人スキー客に人気が高い信州の白馬村にもキロロと同じ北米のリゾートホテルブランドのマリオット・ボンボイ(旧・SPG)が進出。さらに松本空港と北海道の新千歳間を結ぶ定期便が就航し、一度の訪日で信州と北海道のスキーリゾートの両方が楽しめるよう利便性が図られました。

また前述の通り、信州を代表する「スキーと温泉の街」である野沢温泉村でも村の予算の4分の3を投じる*注3というかなり本気度の高い大型投資が進行中。

野沢温泉スキー場 新長坂ゴンドラ
新長坂ゴンドラの告知コーナー(野沢温泉スキー場:2020年1月撮影)

信州の場合は今のところはまだスキー・スノーボードをメインに訪日した南半球(オーストラリア・ニュージーランド)や欧米からのゲストが多い感じですが、北海道の場合はアジアの富裕層が中心。

アジアからのゲストは必ずしもスキーやボードのための訪日というわけではないので、空港からのアクセスが良く、快適で設備が洗練されたリゾートが多い北海道が人気で、そのため知名度の高いニセコの混雑と物価高は飛び抜けていて、ランチ一食4000円なんてとこも。

新千歳では12年ぶりにオーストラリア(シドニー)への直行便が復活しましたが、20年前ニセコ人気に火を付けたオージーたちにとって別の意味で「簡単には行けないところ」になってしまい*注4、本州のスキー場に「南下」してきている模様。

地球規模の少雪傾向も手伝い国内のスノーレジャー人口は相変わらずパッとしない昨今*注5、客単価が高いインバウンド需要の取り込みへとシフトしていくのは合理的な流れと言えます。

北米やヨーロッパの「大成功」しているスキーリゾート・マウンテンリゾートに共通している点は、世界中から集客できるブランド力があること、豊富な資金があり大規模な投資を惜しまないこと、そして、かつての日本の「高級リゾート」のように初めからハードルを高く設定せず、カジュアルでだれでも楽しめる一方でメインのターゲットは富裕層に絞り、快適な休暇を過ごすための出費を厭わない顧客を選別して囲い込んでいくというやり方です。

国内スキーリゾートのグローバル化と、そのための投資は今後の大きな課題ではないでしょうか。

←前編も読む



【速報】2021年12月追記 

キロロリゾートの資本がタイ企業から中国企業に移ったことがMSNマネー(2021年11月27日)で報じられました。

また一方で、札幌市によるキロロと札幌国際をアクセス道で結ぶという構想が水面下で動いているというニュースが2021年12月20日の日経新聞に掲載されました。ーかつての雪上車シャトルのルートに道を造るのか?ー

はたしてプロパティ・パーフェクト社の10年で1000億円投資して行うというキロロの拡張計画はどうなるのか、ヤマハに続いて2度目の「幻のマスタープラン」になってしまうのか?

気になりますね。


索道データ
名称 ゲートウェイエクスプレス
事業者 キロロアソシエイツ -> New KRH
索道の方式 Hybrid (MGD /High Speed Quad)
開業 2019年12月
キロ程 878m
速度(毎秒) 5m
最大乗車人数 8人/4人
最大輸送(毎時) 1957人
乗車時間 3.1分
施工 日本ケーブル


*注1
野沢温泉スキー場、新長坂ゴンドラ。現・長坂ゴンドラの完全リプレイスで路線も変更される。搬器はCWAの最新キャビン OMEGA V-10。新長坂ゴンドラについては来シーズン(2020-21シーズン)現地レポート予定なので乞うご期待。

*注2、*注3
ソース:日経新聞 2019/12/11記事

*注4
ソース:北海道新聞 2020/1/14記事

*注5
参考資料:レジャー白書2019
2019年度の国内スキー・スノーボード人口は590万人で前年度(2018年度)の620万人から減少、一方で余暇市場のスキー場(索道収入)は2018年度の530億円から550億円へと増加している。

但し、この「レジャー白書」は1983年の第一刷から一貫して集計数値のソースと根拠の記載が無いので統計というより推計であり、特に情報化が進んでいなかった2000年以前の数字はかなりアバウトと考えられる。



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