【単走式索道とは】
単走式(往復式)とは、1台の搬器が往復運転を行う方式で、索道の場合は交走式に分類されます。
単走式の場合、1台の搬器が2つの駅(乗降場)間を往復運転するものは輸送機関と言えますが、駅が1つのもの(反対側では貨客の乗降をおこなわずに折り返してくるもの)は輸送機関としての機能はありません。
前者は旅館や大型マンションなどの敷地内移動用の小型ケーブルカー/リフトカー等によく見られ、現役の索道では、箱根の大和屋ホテルの「夢のゴンドラ」が有名です。後者はデパートの屋上や遊園地などの、いわゆる「遊戯物」に見られる方式で、戦後間もない頃に、渋谷の東急百貨店⇔玉電ビル(現・東急東横店東館⇔西館)の屋上を往復していた「ひばり号」がよく知られています。
今回の「宇宙アポロ風呂」は、後者のパターンに属する単走式索道。当サイトでは遊戯物のロープウェイは扱わないのですが、このロープウェイは、索道の入門書として知られる斉藤達男氏の索道三部作の一つである「続・旅客索道」でも触れられている由緒正しい(?)索道ということで、取り上げることにしました。
|
|
|
|
|
|
宇宙アポロ風呂。
出典:名物風呂の宿 カラーブックス/1987 |
|
みかんの里として知られる和歌山県有田市のホテル(有 田 観 光 ホ テ ル)に、かつて「お風呂のロープウェイ」と呼ばれた索道がありました。
正式名は「宇宙アポロ風呂」と言い、バスタブを搭載した搬器がホテルの入浴施設内の発着所から、140m先の岩礁の上に造られた支柱までの海上を、約10分かけて往復(折り返し地点で30秒ほど停止)するという物。
|
|
|
1969年(昭和44年)*注1の運行開始から約20年間、ジャングル風呂・牛乳風呂など数々のユニーク風呂で話題だった同ホテルの最大の目玉として活躍しました。
運行は、夜間を除く利用者がいる時に随時行われ、基本的に団体・グループ用ですが、一名利用も可能だったそうです。なお、男女は別便、強風や悪天候時は安全のため運休したということです。
|
|
宇宙アポロ風呂は、そのあまりのユニークさに70〜80年代にかなり多くのメディアで取り上げられ、私の手元にも、ここを紹介した当時の雑誌がいくつかありますが、その全てが「変わり種のお風呂」としての紹介で、索道という観点から言及されている物が皆無なため、索道の詳細な諸元や施工関係については残念ながら不明です。
|
|
索条と岩礁上の支柱。 |
|
お風呂に関しては、上の写真の搬器のツノのように飛び出した部分に2本のパイプがあり、発着時に自動的に給排湯を行う仕組みになっていたようです。当時の写真を見ると搬器の内部はかなりシンプルで、左右に5つずつ計10個の1人用バスタブが窓側に設置されており、通路には短いスノコが敷かれています。
|
|
|
それにしても、こうしてゴンドラの写真を見ると「宇宙アポロ風呂」という、ぶっ飛んだネーミングからイメージされるような奇抜なものではなく、いたってオーソドックスな正統派デザインのロープウェイ搬器です。
この索道が運行を開始した1969年は米国のアポロ11号が人類初の月面着陸に成功した年で、当時の「アポロ」という言葉の響きには「ハイテク」や「近未来」のようなイメージがあったのかも知れません。
|
|
ちなみに前述の雑誌の紹介記事は、内容がまちまちで、たとえば索道の往復時間にしても、ある物は10分、ある物は5分、3分と書いている物まであります。20年間の運行期間中に、システムが何度か変わったのかも知れませんが、一体どれが実際の往復時間だったのかよく分かりません。
でも、それが「宇宙アポロ風呂」だった、ということなのかも知れません。無粋なスペック収集などとは無関係なところで、利用者は単純にこの奇想天外な空中入浴を面白がり、楽しんだということでしょう。
というわけで、今回は番外編として単走式の索道を紹介しました。なお、冒頭の「夢のゴンドラ」と「ひばり号」は、共に1955年以前に開業した索道*注3なので、ここでは範囲外ですが、晴遊閣 大和屋ホテルのHPと@niftyデイリーポータルZの特集記事で、それぞれの姿を見ることができます。
− 2008年8月25日
|
|